汗を流し、自然と親しむ
つい数十年前までめったに起こらなかったような凶悪事件が、いまでは日常茶飯事である。どうしてこんな世の中になってしまったのだろうか。社会が自由で豊かになる一方で、社会に適応できない人間が凶悪な行動に趨っていく。途方もなく長い時間をかけてゆるやかに進歩してきた人類の歴史の中で、あまりにも急速に進歩し変化してきた情報化社会に適応できない、病める社会の一端を示しているのではないだろうか。
そんないやな気分を吹き飛ばすには、体を動かして自然の中にどっぷりと浸かるのがいちばん。人間本来の野生に戻るのである。というわけで、先日は八王子から五日市の秋川渓谷を経由して奥多摩の霊山であり花の百名山としても知られる御岳山の麓までのサイクリングを楽しんできた。往復約50kmのコースである。八王子の我が家を出て1時間半で五日市に到着。さらに楢原街道を西に向かって自転車をこいでいくと、だんだんと奥深い山々に囲まれていく。途中、楢原街道を右に折れ、延々と坂道をこいでいくと、やがて深い森林の中に入っていく。新緑のさわやかな香りと道沿いを流れる沢のせせらぎの音が、娑婆で積もり積もった心の垢を洗い流してくれる。この清涼感を一度味わうと山に取り憑かれてしまう。
楢原街道からおよそ8km坂上ったところで自転車を降り、さらに奥の方に歩いていった。ほとんど人は見当たらない。クマでも出てこないかと心細くなったところで、後方から軽自動車がやってきた。老夫婦が乗っていた。ドライブのようである。
「この道は通り抜けできますかね」
夫人も助手席から覗き込むようにこちらを見ている。
「初めてなのでわからないです。おそらくダメじゃないですかねえ」
老夫婦はそのまま進んでいったが、しばらくして引き返してきた。
「やっぱりダメでしたよ。」
御岳山の麓で行き止まりになっていたらしい。
ここまできたからには山に登りたいのだが、老体の体力も限界である。帰りのことも考えないといけない。止む無く引き返すことにした。
60代も後半になって元気でおられることだけでも幸せである。一に健康、二に健康、そのもとになるのは、何事も無理をしない、趣味をもつ、そして人生を楽しむことである。しかし、このような健康的な生活も定年を終えて初めて手に入れたものである。仕事と両立できるのが最も幸せなことだと思うが、残念ながらそれだけは叶わなかった。
さて次回はどこにする。
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