徒然なるままに

あるがままを生きる

読書のすすめ_「マンガーの投資術」


株式投資に関する書物は巷に溢れている。私もこれまでたくさんの書籍を購入したが、心に留まったものがない。ほとんどの書籍の内容が、投資とは縁遠いマネーゲームの手引きや戦術になっているためだと思う。しかし、今回紹介する「マンガーの投資術」は、これまで読んだ株式投資関連の書籍の中で最も感銘を受けたものである。株式投資に王道があるとすれば、まさにこれだと思う。

以下、その内容の一部を紹介する。


〇 「手っ取り早く金持ちになりたい」という欲望は非常に危険である(20ページ)

定年を迎えて比較的自由な時間を持てるようになった私は、通算20年以上の投資経験の中で、初めてデイトレードに挑んでみた。それまで以上に投資に関する研究も積み重ねた。しかし、昨今の国際政治の混乱や地政学的なリスクに振り回され、結果は悲惨なものだった。デイトレードにより継続的に利益を得ることの難しさを身を持って体験した1年だった。


株価は、社会のあらゆる事象や集団力学的な投資家心理に反応して、海面のさざ波のように、時には津波のように日々変動する。このような日々の株価変動を予測しながら短期売買を繰り返すのはリスクが高い。世の中には投資に関する本が溢れ、中には短期売買により億万長者になったというような、投資家の欲望を掻き立てるような記事もたくさん見られる。しかし、数億円もの宝くじにだって当たる人はいるのである。すべての投資家が儲かるような錯覚に陥ってはいけないと思う。マンガーも本書の最初のところでこれに近いようなことを述べている。


〇 私が成功できたのは、集中力が長く持続するからである。・・・忍耐とは、手元に十分な現金を用意しておいて、偉大な企業の株価が下落して適正な水準になるまで、集中力を切らさずに持ち続けることを意味する(50ページ)。待つことは、投資家にとって大きな助けになる(63ページ)。ひとたびある銘柄を購入したら、その企業が持ち前の成長性を発揮して収益を伸ばし、株価を押し上げるまで待たなければならない(64ページ)。


まさにこのことばに、マンガーの投資の神髄が表れていると思う。


「銘柄に惚れるな」という相場格言がある。これは、一見、マンガーの投資スタイルに反する。しかし、マンガーは、永続的な競争優位性と成長性をそなえた企業の株を長く持ち続けるべきだということを述べているのであり、状況に応じて柔軟に銘柄の入れ替えを行うことは必要なことだと思う。十分な研究を行い信頼して購入した銘柄でなかったり、リスク許容限度を越えて購入すると、株価が下落したときに冷静な判断ができなくなる。株式投資において最もいけないのは、企業をよく研究することなく、日々の株価変動に振り回されながら安易に売買を繰り返してしまうことである。楽観の中で高値をつかみ、悲観の中で安値を狼狽売りしてしまうという戦略なき自然な衝動が悲惨な結果を招く。


株価は下がるときはアッという間に谷底に転げ落ちていく。1年かけてコツコツと積み上げてきた儲けが、1日で吹き飛んでしまうことさえある。株式投資においては、例え長期の投資であっても、大暴落による損失を最小限にする方策を身につけておかないと勝ち続けることはできないと思う。


株価は必ずといってよいほど、1年に数回は暴落する。また数年に1度はブラックマンデーやリーマンショックといった大暴落を繰り返す。マンガーの投資術においては、この株価の暴落をじっと待ち続け、株価が適正値に達したかどうかだけに集中すればよい。予測困難な株価の日々の変動に神経をすり減らす必要もない。しかし、このようなタイミングを待って、安くなった株を買うには、非凡な忍耐力と胆力を要する。株のバーゲンセールになったときには手元に資金が残っていない、悲観ムードの中では買う気になれない、というのが大方ではないだろうか。


マンガーのいう「偉大な企業」とは何か。それは「長期的に利益と資産を成長させ続けることができることが可能な企業」、「永続的な競争優位性と成長性をそなえた企業」である(162ページ、165ページなど)。このような企業の発掘にこそ最大限の努力をすべきだということだろう。


株価は長期的には、企業の成長に伴って上昇するという揺るぎない事実がある。この事実に軸足をおきながら、上記したような株式投資におけるリスクを抑えつつ、大きなリターンを得ることが可能なマンガーの教えこそ、株式投資の王道といえるのではないだろうか。


一度染みついた投資スタイルは簡単に変えられるものではない。人間は愚かである。痛い目に会って初めて、先人たちの知恵を身につけることが多い。「マンガーの投資術」は、今後の投資スタイルを大きく変革する可能性をもった、めったに出会うことのない宝書である。本書をご紹介いただいた、楽天証券のレポートを連載している山崎元氏にお礼を申し上げたい。

0コメント

  • 1000 / 1000