徒然なるままに

あるがままを生きる

ララとタマとの絆_匂いの記憶

野良猫ララを母猫タマから引き離して保護したのは、ララが生まれて3か月後だった。さらにそれから約4カ月後、やむを得ずララとリリ(行方不明)に避妊手術を施した後に野に戻した(詳細は前掲の「子猫を連れてきた野良猫_その後1」など参照)。ララとリリがタマと親子仲良くしてくれることを信じていた。しかし、あろうことか、タマは再会したララとリリを激しく威嚇し、追い散らしてしまったのだ。ララを保護したとき、あれほど泣き喚きながら必死に子猫を捜し回っていたタマだったのに、いったいどうしたというのか。ララとリリを野に戻したことを後悔するばかりだった。

ララを保護したときの年齢は、人間に例えると2~3歳になるのだろうか。その後ララの成長は著しく、タマと再会したときはほぼ成猫に近い大きさに成長していた。今から思うに、警戒心が強く他の猫を寄せ付けないタマが、ララを自分の子供だと気づくはずもなかった。


            保護直後(生後3か月)のララとリリ        20170810


ララもタマも、他の野良猫に対する警戒心が非常に強く、他の猫と仲良くしているところを見かけることはほとんどない。ほとんどの場合は、他の猫の気配を感じただけで逃げるか喧嘩をする。しかし、ララはタマに対しては、出会っても恐れることなく、目を細めてグルグル喉元を鳴らしながら甘えるしぐさをするのである。そしてタマが去ろうとすると、いじらしくも視界から消えるまで、後を追うようにじっと見つめている。そしてタマがいた場所の匂いをしきりに嗅ぐ。他の野良猫に対しては決してこのような行動をとることはない。明らかに、生まれてから保護されるまでの3か月の間、一時も離れることなく甘えていた母親の記憶を呼び起こしていることは間違いないように思える。一方、再会当初、ララを威嚇しながら追い散らしていたタマも、最近ではララが近づいて来ても気にする様子はない。ララ以上に警戒心が強いタマがこのような行動をとるのを他に見たことがない。生後間もなく記憶した互いの匂いを通じて、ララとタマは親子の絆を直感的に感じ取っているに違いない。


             微妙な距離を保つ母(タマ)と子(ララ)    20170814


匂いから過去の記憶が蘇ってきたという経験は誰しもあると思う。私も、買ったばかりのノートを最初に開いた時の匂いを嗅ぐと、今から約60年もの前の出来事なのに、小学校に入学して初めてひらがなを書いたときの感動が蘇ってくる。またヒノキの匂いを嗅ぐと、子供の頃、正月に下駄を買ってもらったときの感動が鮮明に蘇ってくる。この匂いから過去の記憶が呼び起こされる現象は「プルースト効果」としてよく知られている。嗅覚は五感の中で唯一、記憶を司る海馬や、喜怒哀楽などの情動を司る偏桃体がある大脳辺縁系と直接つながっている。この大脳辺縁系は、原始哺乳類以降に嗅覚機能を主として飛躍的に進化した(Science )。嗅覚の進化は、単に夜行性や土中生活という環境適応から生じたものではなく、母子関係や同類認識、雌雄認識のために必要不可欠だったものではなかと言われている。嗅覚が発達した猫は、匂いから過去の記憶をよび起こす力が人間以上に強いのではないだろうか。


動物の習性や行動を観察するとことは、人間とは何か、人間にしかできないことは何かを考えるきっかけにもなる。私が動物に対して深い情愛を寄せる原点はここにある。

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