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カメラの歴史と未来

詳細なカメラの歴史については立派な論文や記事も多いので、ここでは1970年代以降のカメラ進化の原動力となってきた電子化技術に焦点を当てながらその歴史について述べたい。さらに、カメラの未来について私見を述べたい。


1. カメラの歴史

(1)フィルムカメラ

昭和40年代後半頃までのカメラの電子化技術は、露出計やシャッタや絞りの簡単な電磁制御が中心であり、カメラ全体の構成からするとマイナーなものであった。

  

カメラの露出計は、その初期(1960年代)においてはCdS(硫化カドミウム)を用いた外部メーター式であった。世界で初めてレンズを通過した光を測光するTTL(through-the-lens)測光内蔵式露出計が搭載されたカメラは、1963年(昭和38年)に東京光学(現トプコン)のトプコンREスーパーである。これにより簡単で精度の高い測光が可能となった。


          トプコンREスーパー


その他の、特筆すべき測光方式としてオリンパス光学(現オリンパス)から1975年に発売されたオリンパスOM-2のTTLダイレクト測光方式がある。これはフィルムの露出中に測光するもので、これにより精度の高いTTLフラッシュ調光が可能となった。


          オリンパスOM-2


キャノンが1976年に発売したAE-1は、カメラに本格的なマイクロコンピュータを採用した最初のカメラである。これにより、カメラの様々な機能の自動化や多様な表示が低コストで実現可能となった。AE-1はその後の一眼レフカメラの方向性を変えるカメラとしてカメラ業界におおきな衝撃を与え、その後のカメラの電子化の流れを大きく変えるきっかけとなった。多くの電気メーカーが超小型表示デバイスやワンチップマイクロクロコンピューターといった新たな電子デバイスの開発、カメラの小型化のための実装技術開発を始めるなど、現在に繋がる電子産業の技術革新のきっかけとなった。


          キャノンAE-1


キャノンAE-1の登場によってカメラの電子化はさらに高度化していったが、最後の大きな砦がシステム一眼レフ用のオートフォーカスであった。それまで数社からオートフォーカスを行う一眼レフカメラが発売されていたが、性能やレンズシステムとの整合性がよくない等の理由で普及しなかった。本格的なシステム一眼レフカメラ用のオートフォーカスとして登場したのが、1985年2月発売のミノルタα-7000である。α-7000に採用されたTTL位相差方式のオートフォーカスは、性能だけでなく多様な交換レンズとの整合性がよく、その後の一眼レフカメラ用オートフォーカスの基本方式となった。現在のデジタル一眼レフカメラに採用されている像面位相差方式も基本的には、このミノルタα-7000に採用されたオートフォーカスの流れを汲むものである。


ミノルタα-7000に採用されたTTL位相差方式のオートフォーカスと、その後の手ぶれ補正技術によってフィルムカメラの技術もほぼ完成の域に達し、成熟期を迎えることになる。そして、次に述べる1995年以降のデジタルカメラの登場によって、フィルムカメラは次第に衰退していった(表1参照)。


      ミノルタ α-7000


(2)デジタルカメラ


          ソニー マビカ


デジタルカメラは、1981年にソニーが試作した「マビカ」が第一号となる。その後も数社によりデジタルカメラが発売されたが、記録媒体がフロッピーディスクだったことや、撮像素子の画素数が少なく画質が粗かったこと、そして値段が非常に高価であったこと等により普及するに至らなかった。しかし、これらの試作機や商品を契機として、水面下では各社熾烈な開発競争が繰り広げられていた。マビカが誕生した1981年から普及品が発売される1990年代半ばまでの約15年間が、デジルカメラの黎明期といえると思う。この間の固体撮像素子、画像データを記録するメモリ、映像情報を処理する集積回路、電子部品を実装する実装技術、画像を印刷するハードコピー技術の進歩は目覚ましく、まさにこれらの要素技術を基盤として誕生したのが、1995年カシオが発売した「QV-10」であった。撮像素子の画素数は25万画素に過ぎなかったが、コンパクトで使い易く、65000円という破格の値段だったことから大ヒットとなった。



         カシオが発売した「QV-10」


「QV-10」の発売を契機として各社からデジタルカメラの発売が相次ぐとともに、高画質化、高速化、記録媒体の大容量化、手ぶれ補正等の高機能化、低価格化等が加速していった。そして2002年には国内メーカーのデジタルカメラの総出荷台数がフィルムカメラを逆転することになった。そして、デジタルカメラの低価格化による採算性の悪化や、デジタルカメラ事業への乗り遅れ等により、カメラメーカーの再編が相次いだ。2005年、京セラがカメラ事業からの撤退し、2006年、老舗のカメラメーカーコニカミノルタのカメラ事業から撤退、2007年にはHOYAがペンタックスを経営統合した。一方、家電メーカーのソニーと松下電器産業がデジタル一眼レフに参入した。


表1:CIPA(カメラ工業会)による出荷台数の推移グラフ(“ToRiZo:デジカメ登場と写真撮影枚数 (第2回)”の記事から引用)


(3)スマートフォンカメラ

スマートフォンに付属しているカメラ部は単なる端末に過ぎず、スマートフォンカメラはスマートフォン、インターネットおよび様々なアプリが一体となった巨大なシステムである。しかし、誰もこの巨大システムを持ち歩いていることを意識したことはないだろう。スマートフォンカメラが、従来のスタンドアローンのデジタルカメラに比べて圧倒的に優位なメリットを持つことは、この全体システムの大きさの違いからも明らかである。スマートフォンカメラで撮影した画像は、インターネットを介して保存や加工をすることが容易であり、また世界中誰とでも簡単に共有することができる。最近では、画質も従来型のコンパクトカメラと比べても遜色のないレベルに向上し、オートフォーカスや手ぶれ補正等の機能も充実してきている。従来型のコンパクトカメラの衰退は必然の成り行きだった。


表2:世界の携帯電話販売台数に占めるスマートフォンの販売台数の推移(推計)

(総務省:「特集 ICTが導く震災復興・日本再生の道筋」から引用)


2. カメラの未来

インターネット社会の進展により、カメラはスタンドアローンとして存在することが難しくなってきた。一方、スマートフォンカメラは今後も無限の進化を遂げていくだろう。様々な機器をインターネットに接続して巨大なシステムを構築することにより、そのメリットを享受するという技術の流れは今後ますます盛んになっていくことは間違いない。今を時めくIOTはまさにこの技術の流れに沿ったものである。


表1に示すように、スチルカメラ(スチルカメラ:ビデオカメラやテレビカメラを除くカメラの総称)の総出荷台数は2010年をピークに減少している。中でもコンパクトカメラの出荷台数の減少が著しい。これに呼応するように表2に示すようにスマートフォンの出荷台数が増加している。将来、旧来型のコンパクトカメラで生き残るのは水中撮影等の特殊用途だけになるのではないだろうか。デジタル一眼レフカメラはマニア用、プロ用として今後も生き残るが、今後新たな事業再編や撤退を余儀なくされるカメラメーカーが出てくることは避けられないと思う。


そして、一般用途のカメラはスマートフォン等のコミュニケーションツールの付属機能として発展していくと思う。したがって、カメラの未来を予測する上で、スマートフォンが今後どのような進化を遂げていくかが鍵になる。


では、スマートフォンの形が将来大きく変わるとしたらどのようなものが考えられるだろうか。その一つとして、シースルー表示(外景と文字や画像を同時に観察可能な表示)タイプの眼鏡型のスマートフォンがある。この方式だと小型軽量で大画面表示が可能になる。このシースルー表示型の表示装置は、主に産業用途として実用化されている。


        エプソンが開発した眼鏡型ディスプレー


しかし、このようなシースルー表示型の表示装置を備えたスマートフォンが広く入れられる為には、携帯性、デザイン、使い易さ、性能、消費電力等すべての点で現在のスマートフォンと同等以上であることが求められるととともに、少なくとも使い易さにおいては現在のスマートフォンを上回る必要があると思う。しかし、現状はこれらすべての条件を満たす技術レベルには程遠いと思う。例えば、外光の影響を受けることなく明るく高精細な画面をどうやって実現するかといった問題、文字などの情報入力のインターフェースをどうやって実現するかといった問題、プライバシーや安全性の問題等である。デザイン的に違和感のある人も多いのではないだろうか。この中でも、新たな情報入力のインターフェースのハードルは高いと思う。そのひとつの方法として、脳波を感知して情報入力するブレイン・マシン・インタフェースが提案されている。奇しくも先日の4月19日、フェイスブックは脳で操作するコンピューター(a brain-computer interface)技術を開発していることを発表した。将来の新型スマートフォンに繋がる技術として注目される。さすがに米国はこのような先端技術に着手するのが早い。2013年に開発者向けに発売されたGoogle Glassは一般消費者の手にとどくことなく販売が中止されたが、過去に多くの商品が失敗を繰り返しながら、やがてヒット商品に繋がっていったことを考えると、眼鏡型ディスプレーもさらに改善を重ねながら、現在のスマートフォンの形を大きく変えるヒット商品になる日が来るかも知れない。


ここでは取り上げないが、その他にも各社から様々なタイプの未来型のスマートフォンが提案されている。しかし、上記した眼鏡型ディスプレーのような大胆な提案は少ない。しばらくは表示デバイスとして有機ELの採用、通信速度の向上、さまざまなアプリの追加といった現状の基本形態をそのままにした改良が続いていくと思う。いつかはわからないが、スマートフォンの基本的な形が変わるときとき、それに付属するカメラも新たな飛躍を遂げていくだろう。


カメラに限らずあらゆる工業製品は技術の進歩とともに新旧交代しながら、とどまることなくより使い易くより高性能なものに進化していく。そして、この変化にタイミングよく対応できる企画力、技術力、柔軟性を持った企業だけが生き残っていく。


“ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。(方丈記)”

世の中にある企業と科学技術と、またかくのごとし。


おわり



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