サイクリングは三文の徳
(前掲の“野生のカラス_クロとカコ(出会いから別れまでの5年半の記録)”の記事の一部を抜粋し、追加や修正をしたものです。)
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八王子の自宅を出て日野バイパスを経由し、40分もペダルをこぐと多摩川が見えてくる。多摩川にかかっている石田大橋を渡ったところで、サイクリングロードを都心方面に向かって走ると、四季折々に川沿いの木々や草木の匂いが漂ってくる。ヨシキリやすずめなどの野鳥のさえずり、野球やサッカーの練習をしている元気な子供たちの声、そして多摩川の橋を渡る列車の音など、ここは人と自然が混然一体となった楽園のようである。
石田大橋から見た多摩川とサイクリングロード 2017/4/8
多摩川にかかる鉄橋(京王線) 2017/4/8
サイクリングロードを走っていると、体に吹き付けるさわやかな風が、それまで蓄積したストレスを吹き飛ばし、体中に英気が漲ってくるようだ。サイクリングは心身の健康によい、小回りが効く、そして燃費を気にする必要もない。“早起きは三文の徳”というが”サイクリングは三文の徳”でもある。やがて、自宅から1時間半程すると東京競技場にたどり着く。片道16kmのサイクリングである。年を取ったせいか、夏の盛りなど疲れて体が諤々することもあるが、さわやかな清涼感を一度味わうとなかなか止められない。
府中市郷土の森公園前 2017/4/8
折り返し点の東京競馬場で休憩をとる。競馬ファンが集まる東京競馬場は、隠れてコソコソとトイレの落書きなどイメージに合わない。その通り、数あるトイレはどこもピッカピカだ。もちろん、ほうきと塵取りを手にした大勢の清掃員の方々の努力の結果でもある。冷暖房完備はもとより世界に誇る贅沢な設備やサービスが充実しており、ギャンブルのイメージとは程遠い清潔感に溢れている。高級ホテルかと勘違いしてしまいそうだ。仮眠をとるのに適した冷暖房完備の静かなところもあり、休憩場としてこれ以上の場所はない。特に、レースが開催されないシーズンは静かでよい。
桜満開の東京競馬場 2017/04/08
高級ホテルのように豪華で清潔なホール
レースが開催されるシーズンになると、老若男女を問わず、多様な顔立ちや服装をした人たちでごった返す。夏場になると、ひげ面をしたオジサンが太鼓腹も露わに大いびきをかきながら新聞紙の上に寝そべっているかと思うと、その脇を若いカップルが気に留める様子もなく通り過ぎて行く。貴婦人らしい身なりをした上品な女性も通り過ぎて行く。車椅子の人もいる。ヨレヨレの婆さんや爺さんもいる。秋の天皇賞にはたまに皇太子殿下も行啓される。まさに、年齢も性別も身分も関係のない様々な人たちの坩堝といってよい。馬ならぬ人を観察するのも楽しみのひとつである。私にとって、東京競馬場は何の気兼ねなく自由きままに過ごせるオアシスである。これまで6年間、ほぼ毎週通ったが飽きることがない。
10万人以上もの競馬ファンが押し寄せる日本ダービー等の大レースでは、大観衆の歓声に飲み込まれて年甲斐もなく熱くなってしまう。しかし、最近は大レースを除き馬券はほとんど買わない。競馬分析は不確定要因が多くて余りにも難解だし、勝負師としての素質もないことに気付いたからである。競馬場には招かれざる客に違いない。
日本ダービー 2014/06/01
競馬場で仮眠をとって、帰宅の途につくのは午後4時過ぎになる。秋も深くなってくると、ちょうど夕日が空を赤く染める頃である。疲れもすっかり取れ、帰りのペダルを漕ぐ足も軽やかになる。西に向かって自転車を走らせると、はるか彼方に逆光に照らされた丹沢山系や富士山がシルエットになって浮かぶ。多摩川サイクリングロードから日野バイパスに入ってしばらく走った坂道で一休みする。ここは、たいへん眺めの良いところで、冬至の頃になるとダイヤモンド富士を撮影するカメラマンをよく見かける。
夕日が沈む富士山(日野市)
空を見上げると、夕日に赤く染まった空を背景に、立川方面から多摩動物公園の方向に向かって、点になって悠々と飛んでいくカラスのつがいをみることが多い。たまに1羽で飛んでいるカラスも見かける。日中、立川市街あるいはその周辺で食事をして、多摩丘陵の森の寝ぐらに帰っていくところだろう。彼らは食べ物をいっぱい食べられたのだろうか。皆無事に帰れたのだろうか。子ガラスが待っているのだろうか。カラスが寝ぐらに帰って行く光景を見ていると、赤く染まった夕日の空が物悲しい風情をかもしだしてくる。
秋は夕暮れ
夕日のさして山の端いと近うなりたるに、
烏の寝どころへ行くとて、
三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり
まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし
日入りはてて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず
(枕草子)
自然のかもしだす風情は今も昔も変わらない。
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