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子猫を連れてきた野良猫_その後2

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(1)子猫を連れてきた野良猫

(2)子猫を連れてきた野良猫_その後1


ー 登場する猫 ー


          タマ

2016年2月中旬、お腹を空かしてわが家の裏庭にやってきたタマ(1歳前後)、ちょうどこのころララとリリを宿したと思われる。小心で警戒心が強く、ほかの野良猫とよく喧嘩をするが、ギャーギャー泣き喚きながら敗走してばかり


          リリとララ

2016年8月、保護直後のララ(奥)とリリ(手前)(生後3か月前後)、いずれも女の子、ララは気の強いところがあるがおとなしい、甘えっ子、体形はパパ猫のゴンタ(去勢後に野に戻したが行方不明)に似て胴が短い


子猫を連れてきた野良猫_その後2

 2016年12月末になり寒さも厳しくなってきた。寒さに震えているだろうタマとララのことが気になって仕方ない。ララは夜になると濡れ縁の下に設置したホットカーペット付の小屋で寝泊まりしている。しかし、早朝から夕方までのタマがやってくる時間帯は小屋に近づこうとしない。たまに小屋で寝ているときにタマがやってくるとララは飛び出して逃げていく。我が家に食事のためにやってくるタマは、相変わらず娘のララを威嚇して追い散らすのだ。


            猫用に新作した小屋(内部は全面断熱シート張り、ホットカーペット付)


 2016年12月31日早朝、ララが濡れ縁にやって来たので、鋭い爪で引っ掻かれるのを覚悟でララの首すじを手のひらで撫でたところ、ララははじめ逃げるそぶりを見せたが、恐る恐る差し出した私の腕にスリスリしてきた。生後8か月、捕獲から約5カ月経って初めて心を開いてくれたのだ。そして、このようなことを繰り返しているうちに、今年1月になると、ついに部屋に入ってきて私の体に喉元をグルグルゴロゴロ鳴らしながらスリスリしてきた。時々ところかまわず甘噛みしてくることがあるが、これは信頼の証だろう。これまでの半年間の努力が実りうれしくてたまらない。ひざまずいてララを上半身で包み込むように抱き絞めると、ララのあたたかい温もりで身も心も浄化されていくような幸福感で満たされる。


                    ついに自ら部屋に入ってきたララ

 

                      スリスリ、ゴロゴログルグル


 しかし、ララはかすかな異音や振動にも敏感に反応して身構える。飼い猫のようにリラックスした様子はなく、いつも精悍な目で周囲を見回している。危険ばかりの野生の世界に身をさらしているので当然だろう。ここまで私を信頼してくれたことがうれしい。実はララを家の中に呼び込んでいることは私しか知らない。わけあって大歓迎というわけではないのだ。しかし、断熱シート張り、ホットカーペット付きの小屋、3食昼寝付きなので幸せな方ではないだろうか。いずれ、ララが望むようなら家猫として飼ってあげるつもりでいる。やはり、外の世界は猫にとって危険がいっぱいだからだ。


 2月7日、ララも生まれて9カ月になる。すっかり体は大人になった。早朝4時半、いつものようにストーブに火を入れると、かすかな物音に気付いたララの“ニャーン ニャーン”と、男心をくすぐる頼りないかわいい鳴き声が聞こえてくる。シャッターを開けてやるとララが家の中に飛び込んでくる。「おはよう、寒、寒」と呼びかけると、尻尾を垂直に立てながらスリスリしてくる。抱き絞めると目を細めてゴロゴログルグル喉元を鳴らす。まだ冷え切っている部屋の中でララの温もり全身に伝わってくる。この瞬間がなんともいえない。いのちの尊さを肌で感じる瞬間でもある。栄養たっぷりの朝食をとると、ボールを転がして遊んだりゴロンと寝ころんだりして、1時間ほど経つと何事もなかったようにそっと外に出ていく。 


 昼間も2、3回我が家に帰ってくるとガラス窓越しに“ニャー、ニャー”甘えて鳴く。窓を開けて抱き絞めてやると安心したように目を細めてグルグルゴロゴロ。しばらくすると、何事もなかったようにまたどこかへと遊びに出かけて行く。私の愛を確かめにやってくるのだろう。毎日がこの繰り返しである。家猫として飼うことを諦めて野に戻した3か月前には想像できなかったことだ。私が愛情いっぱいに面倒を見ていることもあるが、リリと別れてしまって寂しいことも一因しているかもしれない。


               野良猫とは思えないほど毛づや良く健康的なララ


                       どこかあどけなさが残る


                 ゴロン、カメラのストラップで遊ぶララ


                      からだは大人だが、やっぱり子猫



 ララの後を追うようにタマも我が家にやってくる。窓の外に餌を置くと、お腹を空かしているのかよく食べる。ガラス戸を開けると逃げるので、ガラス越しに食べ終わるまでじっと見守ることにしている。


               美人のタマ、ふっくらしてきたが表情はどこか険しく寂しそう


「タマちゃんおはよう」

「ニャー ニャー」

甘えるようなか細い鳴き声で応える。

「タマちゃんどこで寝ているの・・・ 寒いだろう」

「ウニャ ウニャー」

「ほら、お前の娘だよ、優しくしてあげなよ」

「ウン ウン ワウーン」

しばらくして、食事を終えると急ぎ早にどこかへ去っていく。

「どこ行くの、またおいで」

立ち止まって振り返ると、

「ワオ ワオーン」

 話しかけるたびに多様な感情豊かな鳴き声で応えてくれる。タマも本心は私にすがりたい気持ちでいっぱいなのかもしれない。


 タマは相変わらず警戒心が強く、ちょっとした気配や物音にも敏感に反応して逃げてしまう。ましてやタマに触れることなどできない。避妊手術を担当した獣医によると、タマと出会ったときの年齢は1歳前後ということだったので、人のやさしさにふれることなく野生の世界で生きてきた時間が長かったことを考えると、馴れてくれるまでにはまだしばらく時間がかかるだろう。


 これまでララを見ると追いかけるなどして激しく威嚇していたタマも、最近ではあまり気にしなくなった。しかし、ララを自分の子猫だと認識している様子はない。一方、ララは窓ガラス越しにタマの目前に近づいて、リラックスした様子でグルグルゴロゴロ喉元を鳴らしている。明らかにタマに甘えているような素振りである。生まれて3か月過ぎるまで、一時も離れることなく甘えていた母親の温もりに本能的と引かれているのかも知れない。これに対して、タマは食べ終わると何事もなかったようにひっそりどこかへ去っていく。親子の絆を引き裂いてしまった自責の念に駆られる。


                                      早朝5時、母親を見つめるララと、やや緊張気味のタマ


 一方、昨年11月初めに我が家を出て行ったララと姉妹のリリは相変わらず姿を見せていない。どこかで無事でいるのを祈るばかりだ。厳しい寒さがもうしばらく続く。ララにとって初体験の厳しい冬を乗り切るまでは安心できない。


   縁あってこの世に生を受けた野良猫たち

   お月さん仰ぎ見ながらの寒い夜はつらいよ

   お腹ペコペコはつらいよ

   独りぼっちはつらいよ

   死ぬのは怖いよ

   野良猫たちの叫びが聞こえてくるようだ

   猫のいのちも人のいのちもいのちに変わりはない

   彼らは天から授かったたったひとつの尊いいのちをつなぐために精一杯生きている

   人間中心の社会の中で彼らは人の情けなくしては生きていけない

   猫は古来先祖たちが育んできた人との強い絆を生まれ持っているはずだ

   本心はやさしくしてくれる誰かにすがりたい気持ちでいっぱいだろう


 不幸な野良猫を増やさないためにどうすればよいか、

 野良猫とどうつきあえばよいのか、

 これまで試行錯誤しながら悪戦苦闘した体験から得られた教訓を共有していただければ幸いである。

おわり

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