「待つことの大切さ」について
処世して行く上で大切なことは、心にゆとりが出てくる人生の後半になってから気付くことが多い。 “若い頃から心得ておけばもっと有意義な人生を送れたのに”、と思うこともある。長い人生経験から得られた知恵を、若い世代に伝えていくことはとても大切なことだと思う。このブログでも、いくつかそのような趣旨で書いてきたつもりである。そして、今回は「待つことの大切さ」について述べてみたい。
私はどちらかというとせっかちに物事を進める方であり、あとになって後悔することも多い。遅ればせながらこの年になって、「待つ」ということがとても大切な生き方だと思うようになってきた。もちろん、「善は急げ」というように急いだほうがよいものも多いが、それらは語らずとも明らかなものが多いのでここでは考えないことにする。
時の流れに流す
怒りや悲しみ等、いやなことのほとんどは時間が解決してくれる。いやなことに出会ったときは、気分転換をしながらじっくりとただ時が過ぎるのを待っていると、自然に心の中で整理され癒されていくことが多い。私自身もこれまでの長い人生の中で、数えきれないくらい多くの悲しい出来事やつらいことがあった。しかし、それらは時に流され遠い過去の出来事となり、今では幸せな毎日を送っている。「時の流れによる心の癒し」は、自然の神が人間に与えてくれた恵である。悲しみや苦しみに出会ったときはその自然の恵みを信じ、明るい希望をもって生きることが大切だと思う。これは時の流れに任せる行為であり、「消極的に待つ行為」と言ってよいと思う。
「消極的に待つ行為」に対して、「せっかち」に対立する「積極的に待つ行為」もある。「せっかち」は強い自己欲求の表れであり、これに対立する「待つ」は、自己の欲望を抑制し状況を冷静に判断しながらじっくり見守る行為である。意識的に待つ行為と言ってもよいかもしれない。其の為、生まれ持った素養のある人は別として、「待つ」ためには強い忍耐力や包容力、場合によっては高い見識を必要とする。人生においては、この「積極的に待つ行為」ができないために失敗することが多い。逆に、待つことにより大きな成果が得られることも少なくない。
相手を理解し見守る
例えば子育てや教育である。親が自分の思い通りに育てようとして、あれこれ指導しても子供はなかなか思い通りにはならない。時に親の思いとは逆の方向に走ってしまう。ハーバード大学の心理学教授のスティーブン・ピンカーの著書「人間の本性を考える(心は空白の石版か)」によると、パーソナリティーは「内向性あるいは外向性」、「神経質傾向」、「経験に対する開放性」、「攻撃性と調和性」、「まじめさ」の主要な5つの因子に分類できるとされている。ある大事典にでてくる人格特性を表す18000語の形容詞のほとんどは、「嘘をつく」、「盗む」、「喧嘩をする」といったような短所を含めて、この5つの因子に分類できるとされている。そして、パーソナリティーの主要5因子はすべて遺伝的であるとされている。離婚傾向やテレビの視聴時間も遺伝的だというから驚きである。このように、子供は生まれながらの多様なパーソナリティーを持っているのである。参考:「なぜ子供は親の期待通りに育ってくれないのか」
したがって、一方的な押し付けの教育や育て方ではうまくいかないことは明らかである。私は、子供の個性を発掘し、それを育てる教育や育て方がよいと思っている。例えば、放任することなく適切な指導をしながら、子供には好きなことを思いっきりやらせてみることが、子供の自発的な成長を促すと考える。その中で、子供は自分に最も適した、または最も得意な生き方を学んでいくだろうからである。子育てや教育においては、子供の性格や適性を見て、それに応じた指導をすること、子供の気持ちを尊重しながら対応することが大切だと思う。これもまた待つ行為に他ならない。
機が熟すのを待つ
もうひとつ事例を挙げてみたい。私のライフワークである株式投資である。株式投資において大切なのは、銘柄選びと売買のタイミングである。タイミングを図らず欲望に任せて売買をしていると、高値で掴み低値で狼狽売りをして大損してしまう。人間心理として、市場が楽観しているときに買い、悲観の時に売るという傾向にあるからである。投資経験の浅い人ほど、このような失敗をしてしまうのではないかと思う。安いときに買えばよいではないかと思われるかも知れないが、そのようなタイミングにおいては世の中が総悲観になっており、さらに下げるかも知れないという恐怖があるためなかなか手を出せない。また、上昇相場の中で資金を使い果たしており、株を購入する資金がないというケースも多いと思う。現在の相場がまさにそのような状況にある。
株価が大底になるまで売買を控え、大底で資金を投入するという長期投資の戦略が、株式投資において成功するひとつの投資スタイルだと思う。しかし、「言うは易く行うは難し」、この大底のタイミングを待つということが非常に難しいのである。経験や知識だけでなく、買いたい売りたいという欲望に打ち勝つ克己心が必要である。また恐怖の中で買う度胸も必要である。だから、株式相場は修行の場だと考えている。
時の流れとは不思議なものだと思う。時間の流れが速度によって変化するという相対性理論など常識では考えられないような現実もある。「時間とは何か」、これは物理学の世界でもいまだ謎のひとつとされる。日常生活においても、時間はその使い方によってさまざまな恩恵をもたらしてくれる。ただ急ぐばかりでなく、ゆっくり進むのもまた時間の有効な使い方になる。早く事を進めるだけではなく、待つことの意義についてじっくりと考えてみるのも有意義なことではないでしょうか。
おわり
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