情報と秩序_生命の誕生と進化の原理
生命がなぜこの地球に誕生し、そして進化してきたのか、また、人はなぜ社会を形成し経済を成長させてきたのか、その本質について思考を巡らしたことのある人は多いかも知れない。
物理的な現象だけでなく人間の集団的な社会行動も含めて、この世に存在するあらゆる現象は、その科学的な根拠があるのである。その中でも、生命がなぜこの地球に誕生し、そして進化してきたのかというのは、人間とは何かを理解する上で最も根源的な問題ではないだろうか。この難問に自問自答しながら思いを巡らしているとき、偶然にもその答えのヒントが得られるような書籍に出会った。「情報と秩序(早川書房)」である。著者は気鋭のMIT(Massachusetts Institute of Technology)准教授であるCésar Hidalgoである。内容に説得力があり共感できるので簡単に紹介したい。ただし、本書はやや難解でとっつき難い印象を受けた。読んでいるうちに放り投げたくなったら、第12章だけ読んでも大筋を理解できるのではないかと思う。
ボルツマンの熱力学第二法則によれば、物質はエントロピーが増大する方向、つまり秩序だった状態から無秩序の状態に進行する。しかし、地球上において、熱力学第二法則に逆らって生命がなぜ誕生したのか、そしてエントロピーが減少する方向、すなわち秩序だった方向になぜ生命が進化してきたのか。
Hidalgoは、情報を成長させる(より秩序だった状態に成長させる)ためには、非平衡系における情報の自然な発生、固体としての情報の蓄積、そして物質のもつ計算能力が必要であると述べている。非平衡系における情報の自然な発生とは、地球上では太陽エネルギーの絶え間ない流入による物質の秩序の自然な発生を意味する。例えば、渦の発生もその一つである。太陽を神として崇めてきた古代からの哲学的な思想も、科学的な根拠があるのである。固体としての情報の蓄積とは、例えば、タンパク質やDNAによる情報の蓄積である。また、物質のもつ計算能力とは、物質が自己組織化しながら成長していく能力である。固体やネットワークに蓄積された情報を、最小のエネルギーで最大化するようなポテンシャルを形成する自己組織化の能力が、この計算能力といわれるものである。この「計算能力」は、自然淘汰と同様に、生命進化において重要な役割を演じているのかも知れない。
Hidalgoは、上述した情報の成長の基本的メカニズムと経済成長のメカニズムの類似性に着目し、「経済成長の本質である情報の成長は、人類が持つ集団レベルでの計算能力と、想像の結晶がもたらす増強効果との共振化によって生まれる。」と述べている。経済活動は、人間が集団活動を通じて、情報を成長させる活動である。
経済活動に限らず、あらゆる社会活動は、情報の蓄積の最適化、最大化という自然の原理に無意識のうちに支配されているのかも知れない。そして、その原理を科学的に理解することは、人間の行動をより理性的にし、平和で豊かな社会の実現につながっていくものと信じている。間違っても、神秘的な現象に関して、怪しい宗教的な思想に洗脳され、身を亡ぼすようなことがあてはならない。
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